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2014年07月09日(水) 
第三十五話「共同体復活を目指した仕掛け・オトーリ」

「そろそろ始めましょうね~♪」という平山のかけ声とともに、その儀式はスタートした。宮古島では、1971年の大干魃を発端として、農業生産が激減し飲料水にも困窮することとなったため、沖縄本島の都市部に移住する住民が激増し急激な過疎化が起こった。1960年代から1980年代にかけて8万以上有った人口は6万人台までに落ち込む。島では明治時代の中頃まで住居の移動の自由が制限されていたため、この人口の変動は、共同体の中で数百年以上かけて培った人間関係を大きく変質することになった。それまであった村単位の共同体が機能しづらくなり地域社会を支えてきたお祭り等も廃れたのである。

その中で流行し始めたのが「オトーリ(御通り)」である。オトーリは、参加者で「親」となるものが立って口上を述べた後、同じ杯に酒を注ぎなおしてとなりの参加者に渡す。注がれたものはその杯を飲み干し、杯を「黙って」親に返す。「親」は、返された杯に、再度酒を注ぎ、先程飲み干した人の次の人に杯を渡す。杯を渡された人は、同じように一口で杯を干し黙って親に杯を返す。参加者に杯が一巡するまで上記を繰り返し「親」の一人手前までオトーリが回ると、「親」の手前の人は杯を干した後、その杯へ酒を満たし「親」へ返杯する。「親」はその返杯を飲み干した後、自分のオトーリへ最後まで付き合ってくれた礼を述べ、最初の「口上」で述べ足りなかったことがあればそれにも言及し、〆の挨拶を行って次の「親」を指名する。これは、最初の「親」ひとり分のサイクルで、前の「親」から指名された人が新しい「親」となり、同じように口上を述べたあとこの手順を延々と繰り返す。つまり、参加者が多数になればなるほど飲み干す杯の数も増える。

オトーリの起源は、16世紀頃に琉球王国の領地内で流行した中国式の乾杯。当時は酒宴の開催者が来賓に酒を振る舞うために行っていた。琉球王国時代は穀物の生産量が少なかったので、泡盛は首里でのみ製造を許可されており庶民には貴重品だったので、少量の泡盛を酒宴の参加者に均等に分けるために行われた。この16世紀頃の流行は、御嶽での祭祀の中に取り入れられて現代まで残った。御嶽で祭祀でのオトーリは現在のもの全く質の違い、祭祀の神役の前にひとりずつ進み出て祭器(高膳と角皿)注がれた御神酒を一人ずつ順番にアヤグ(祝詞)を神役と共に詠い上げた後に飲み干すと言う形だ。類似の風習は奄美群島与論島にも残っており、与論献奉(よろんけんぽう)と呼ばれている。

現在のオトーリは、1970年代後半になってから泡盛の酒造メーカーが中心になって始まった。目的は、宮古の文化を支えていた濃密な人間関係の復活と泡盛の消費量を向上。古来からの風習を簡略化・変形して、1980年代に歓楽街等で行われるようになり、1990年前後に多くの観光客が来島するようになってから全国に知れ渡った。オトーリは濃密な人間関係を擬似的で一時的に演出しているにすぎず、実際には目的とは逆に伝統文化の破壊(祭祀・儀礼に対する無理解)に繋がっているという批判もある。しかし、人の和を図るだけでなく人前で臆せず発言する(口上)技術も養われるという効果も否定できない。いわば、旧き良き伝統をデザインし直して現代の課題解決につなぐハイブリッド型コミュニケーション技術と言える。飲酒の強要や飲みすぎによる弊害が議論されることもあるが、「酒の弱い人には強制しない」「本人の意思で断ることもできる」というルールもある。

平山が最初の親になって美ら島おこし人たちのオトーリが始まった。さすがは慣れたもので大テーブルを囲んだ誰もが気持ち良くなるような語り口で口上を述べると、となりに座った新村一広(53)に杯を渡した。新村は環境活動やマリンレジャーを推進するNPOを率いて「美ら島」を盛り上げているだけあって酒は滅法強い。新村から平山へ盃は戻され、続く高田に一杯になった杯が回されたとき、対面の位置にいる屋比久がとなりの泰子にささやいた。「さっきまでみんなに酌をして回っていたもなーりーの隣にいるぽっちゃりとした女性は初対面だろう」。泰子はビールのジョッキを片手に頷いた。「あの子はすぬこちゃんといってな、この4月から県庁の地域・離島課の嘱託職員でいろんな島を回ってるんじゃ。なかなかの頑張り屋で見込みのある子だぞ」。さほど酒豪とは言えないすぬここと岡本光代(47)が、高田につづく杯を飲み干したのち、宮古に移住して20年になる京女・上里麻紀(43)にリレーするのを屋比久は父親のような目で心配そうに見つめていた。

つづく

この物語は、すべてフィクションです。同姓同名の登場人物がいても、本人に問い合わせはしないでください(笑)

閲覧数334 カテゴリ日記 コメント0 投稿日時2014/07/09 03:55
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